【マンスリーアーカイブ】4月テーマ 新旧アットリーニから見るその仕立ての伝統と歴史②

こんにちは。
Artigiano-Tokyo Ginza (東京銀座店)です。

前回のブログでアットリーニの歴史と同時にその仕立ての哲学を解説しました。
今回は実際に新旧の仕立てがどのように違うのか?を解説していきたいと思います。

1980年代後半、初代ヴィンツェンツォの流れを汲み、三男:チェザレ・アットリーニが立ち上げたのが現在の既成ブランドとしてのアットリーニです。
※長男が家業を継いだ個人経営の仕立て屋としての「アットリーニ」も存在しますが、既成ベースの作品/ブランドとは無関係です。

アットリーニの個体は大きく分けて「サルトリア期」「チェザレ期」「MTO作品」の3つに分けられます。
サルトリア期は「Sartoria Attolini」と名乗っていた時代の作品群で、2000年初頭までの流通です。
チェザレ期は2000年代以降、現在の「Cesare Attolini」名義になってからの作品群を指します。
MTO作品はいわゆるメイド・トゥ・オーダーの略で、カスタムメイドと呼ばれます。既成の型紙をベースにオリジナリティを加えていくパターンオーダー形式ですが、アットリーニの場合、その選択肢の多さと自由度の高さから、セミオーダーに近い仕立て方といえるでしょう。

アットリーニの作品は一貫してナポリ伝統の「英国調」がベースとなっているが、製造時期/モデル/生地によって、その表現方法は様々だ。一般的には、時代を遡るほどかっちりとした仕立てになるとされるが、単に構築的/非構築的 あるいや英国的/ 伊太利的 で表現するには解像度が荒すぎる。作品個々が持つ表情や表現は更に多層的であり、奥深い。

サルトリア期の作品の特徴は「ナポリらしく、かつ構築的」。
シャツのようなハンドメイド感を強く押し出しつつも、肩回りは構築的で芯材となる肩パッドをしっかりと使う傾向にあります。
英国調でありながら、全面に出た手縫い感。昔ながらのアットリーニと言えば、こちらを想像される方もいらっしゃいます。

サルトリア期のシングルスーツ。サイズは46/48。高身長向きの個体。3シーズンアイテムだが、ウール100%の生地感とは思えない、まるでシルクを彷彿とさせる艶やかさだ。肩回りにはしっかりとパッドが使われているが、これはあくまでアットリーニお得意のコンケープドショルダーを形成するためのもの(トルソーでは首周りへの吸い付きが甘くなるため直線的な肩に見える)。価格も驚き。服装規定の縛りがなければ、是非ビジネスパーソンに颯爽と活用いただきたい1着。【※クリックで商品詳細】

この時期のハンド感を存分に楽しみたいなら、春夏や合物が良いでしょう。その柔らかく軽快な織り生地と手縫いの相性は抜群であり、軽快な着心地とこなれ感を堪能するにはまさに今の季節感に合うジャケットから選択したいところです。

全体的に体への追従性におけるクオリティが安定しており、ハンドによる仕上がりのばらつきが少ないのも特徴です。これはクラシコイタリアの人気と最盛期が続いている時期であり、職人も熟練で固められていたという背景があります。また、巨匠と呼ばれる仕立て職人に直接師事した名職人も多い時期でした。

サルトリア期のシングルジャケット。46サイズ。春夏向けで、麻にしか見えないが何とウール100%。ホップサック織と呼ばれるもので、生地が透けるほどに薄いがその織りは麻袋と同じで驚くほど高耐久。清涼と耐久品質、軽やかさを併せ持つ高級生地。艶気を抑えた生地をあえて使うところがにくい。サルトリア期=重厚な仕立てと思われがちだが、春夏生地はその限りでない。100年前からバカンスを楽しむ貴族を相手にしてきた、当ブランドらしい仕立てだ。【※クリックで商品詳細】

サルトリア期の作品は既に四半世紀が経とうとしているので、傷みや経年のない作品を探すのは難しくなりつつあります。同時に、その個体の生地の退色やほつれも含め、ヴィンテージとしての風格が宿っているのも事実です。単なる古モノで留まらない風格は、モノづくりの核心を突いた仕立てだからこそ宿るものです。我々も、それらを単なる傷みや瑕疵と捉えるのではなく、”個体”そのものの歴史やヒストリーも含め、愛用する価値観を併せ持ちたいものです。

こちらはチェザレ期のシングルジャケット。サイズは44/46。10年以上前の作品。非常に情緒あふれる、香り立つような手縫いの仕立てだ。ところどころ経年が出始め、愛用されていたことが見て取れる。しかしその風合いすら、この個体の個性として機能している。ハンドメイドの作品が持つ温度感は、その歴史と共に、瑕疵一つない状態を良しとする従来の考え方に一石を投じる。【※クリックで商品詳細】

対してチェザレ期の作品は、サルトリア期の仕立てを色濃く継いだ作品群を展開すると同時に、スタイルをはっきりと二分し、アプローチを多角化させた作品が多いといえます。
具体的には、かっちりと作りこむ伝統的なスタイルと、アンコン仕立てと呼ばれるような芯地なし/薄芯地の作品。仕立て方を変えることで、より多くのニーズと価値観に対応し、多様化に対応したブランドへ成長を遂げたと言えます。

チェザレ期のシングルスーツ。サイズは46と、ゴールデンサイズの1着。意外にも肩のマニカ・カミーチャ(雨降らし袖)はそこまで強調しない。アットリーニは生地の特性やパターンによって仕立てのアプローチを器用に変える。CADなどを用いたマシンメイドならいざ知らず、ハンドメイド主体で柔軟に対応を使い分けられるのは、その技術の高さを物語っている。。【※クリックで商品詳細】

全体的に言えるのは、緩やかにモダン化を進めることで野暮ったさを感じさせないと同時に、流行遅れも感じさせないバランス感を備えています。
一般的にスーツ/ジャケットの流行は5年も経つとすっかり様変わりし、細部のディティールでいつ買ったか・仕立てたか分かってしまいます。
そのため「昔買った服をそのまま着ている」感が強くなってしまうのですが、クラシコイタリアでそのような傾向は殆どありません。
特にアットリーニは安定感があり、クラシコの既成の王者たる「ブレのなさ」が魅力と言えるでしょう。

チェザレ期のダブルブレストジャケット。サイズは46。今回の目玉商品の一つ。素材は麻。コシが強いが、肌へのストレスはゼロ。アットリーニレベルが用いるリネンは格が違うと言わざるを得ない。用いられるリネンの張り感もあって、肩周りの構築加減は絶妙。このダークブラウンのダブルはクラシック・ラヴァーにとって憧れとなるはず。寒色寄りのため、ネイビー系のアイテムが多いのであれば自然と着こなし可能。【※クリックで商品詳細】

反面、アットリーニは後継の育成にも取り組んでおり、若手の職人が仕立てを担当することもあります。そのため既成個体は若干品質にバラつきがあるのは事実です。
ネット購入では立体構造の作り込みを判断するのは難しく、”クラシコは試着ありき”とされる理由の一つです。当店も店頭に並べるクオリティの個体は販売前に取捨選択している背景があります。

但し、これらはあくまで手作業に頼った生産体制だからこそ生まれるバラツキであり、高次元での話です。品質のばらつきを「サルトリア期と比較してクオリティが落ちた」と判断するのは早計と言えます。また同時に、未来ある若手職人を抱えているという事実は、衰退が叫ばれるクラシコの世界に希望を与えてくれます。

洋服を選ぶ際、どうしても色柄ありきで選んでしまう傾向がありますが、お探しの色味と違っても、まずはお試しください。先入観で見えてこなかった世界が見えてくることが多々あります。当店はクラシコイタリアの在庫ををただかき集めているお店ではありません。常にクオリティと向き合いながら商品化を進めています(※商品の経年の大小とは別の意味の”クオリティ”です)。価格=クオリティ という判断の元、商品をお選び頂けますと、良いお買い物ができるかと思います。

最後にMTO作品です。MTOは、「サルトリア期」「チェザレ期」どちらにも存在し、一見すると既成作品との見分けがつきません。
内ポケットに依頼主のネームタグが付いており(依頼主の要望で入れない場合も有り)、成分表示タグが付いていないことも多いです。しかしこれらは前所有者が手放すにあたって切り取っているケースもあり、これだけではMTOと判断できません。

一番は既成作品にはない独特の生地使いやパターン、そして仕立てのレベルの高さで出自を伺い知ることができます。
MTOはアットリーニが顧客に提供する最上級のサービスであり、そのクオリティは名だたるサルトリアの仕立に引けを取らないばかりか、並みのフルオーダーを凌駕するとも言われます。

チェザレ期。カシミヤ100%のMTOジャケット。サイズは46ベース。ネーム入り(内ポケット裏側)。MTOに用いられる生地はまさにスペシャル。こちらの個体には副資材は殆ど使われておらず、羽織ると重量を感じないばかりか、まるで自身の体重が軽くなったかのような錯覚を起こす。それでいながらアットリーニの構築感が失われていないことに驚くばかりだ。【※クリックで商品詳細】

豊富なストック/バンチブックから超がつくスペシャルなファブリックが用意され、人間の立体構造に合わせるべくその生地をアイロンワークで徹底的にクセとりし、縫製も熟練職人が担当します。
元々アットリーニが持つ「万人の体に合わせる設計力」も相まって、驚きのフィット感と格好良さを発揮します。他人が仕立てたオーダーなのに、既成品以上に体に合わせてくる、という不思議な体験ができるのがMTO作品です。

チェザレ期のMTO作品。サマーカシミヤ×シルクのラグジュアリー・ジャケット。サイズはビッグサイズの54。通常ラインナップでほとんど見かけないサイズに出会えるのもMTOの魅力。今回は少数ながら50~のサイズも出そろった。【※クリックで商品詳細】

また、MTOは注文主のこだわりが詰まった個体が多く、「こんなオーダーが通るのか?」と信じられないような仕様や、「もはやビスポークでは」としか思えない独自の線が引かれているものも存在します。
当店でもMTO作品は数がなく、スペシャルな仕様と仕立てから販売単価も高額になる傾向にあります。しかしそのレベルの高さを知ってしまうと「フルオーダーこそが至高」という価値観が崩れてしまうほどの衝撃があります。

自分のために仕立てられたのかと錯覚するようなシルエットと着心地が体感できるのが本格クラシコイタリアの大きな魅力だ。多くのUSED&VINTAGEのクラシックウェアにおいて、ジャストフィットは「ラッキー」の賜物であるが、ハンドメイドによるクラシコ品はその設計を所以とした「必然」も多分にある。全くルーズな設計ではないにもかかわらず。これがクラシコイタリアのアドバンテージでもある。

アットリーニは世界3大既成ブランド(ブリオーニ・キートン・アットリーニ)の中では最も小規模で、生産数も多くはありません。しかしその少数精鋭体制だからこそ小回りの利く提案や仕立てが可能であると言えるでしょう。

今回は目玉アイテムとしてデッドトックの個体もご用意。仕付け糸も袖ボタンも手を付けられていない個体が入荷しています。【※クリックで商品詳細】

当店はアットリーニの魅力を再度多くの方に伝えていくべく、最も多くの仕入れをアットリーニのラインナップに割いています。
本格クラシコを2000年前後の一過性のブームで終わらせない。後世に伝えていくべき文化と技術であるという認識のもと、単なるリサイクルや中古という価値観を超えて提案していきたいと考えています。

後半のラインナップも非常に充実しています。今週末以降のご来店を心よりお待ちしております。

Artigiano-Tokyo Ginza

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