こんにちは。
Artigiano-Tokyo Ginza (東京銀座店)です。
前回のブログでアットリーニの歴史と同時にその仕立ての哲学を解説しました。
今回は実際に新旧の仕立てがどのように違うのか?を解説していきたいと思います。
1980年代後半、初代ヴィンツェンツォの流れを汲み、三男:チェザレ・アットリーニが立ち上げたのが現在の既成ブランドとしてのアットリーニです。
※長男が家業を継いだ個人経営の仕立て屋としての「アットリーニ」も存在しますが、既成ベースの作品/ブランドとは無関係です。
アットリーニの個体は大きく分けて「サルトリア期」「チェザレ期」「MTO作品」の3つに分けられます。
サルトリア期は「Sartoria Attolini」と名乗っていた時代の作品群で、2000年初頭までの流通です。
チェザレ期は2000年代以降、現在の「Cesare Attolini」名義になってからの作品群を指します。
MTO作品はいわゆるメイド・トゥ・オーダーの略で、カスタムメイドと呼ばれます。既成の型紙をベースにオリジナリティを加えていくパターンオーダー形式ですが、アットリーニの場合、その選択肢の多さと自由度の高さから、セミオーダーに近い仕立て方といえるでしょう。
サルトリア期の作品の特徴は「ナポリらしく、かつ構築的」。
シャツのようなハンドメイド感を強く押し出しつつも、肩回りは構築的で芯材となる肩パッドをしっかりと使う傾向にあります。
英国調でありながら、全面に出た手縫い感。昔ながらのアットリーニと言えば、こちらを想像される方もいらっしゃいます。
この時期のハンド感を存分に楽しみたいなら、春夏や合物が良いでしょう。その柔らかく軽快な織り生地と手縫いの相性は抜群であり、軽快な着心地とこなれ感を堪能するにはまさに今の季節感に合うジャケットから選択したいところです。
全体的に体への追従性におけるクオリティが安定しており、ハンドによる仕上がりのばらつきが少ないのも特徴です。これはクラシコイタリアの人気と最盛期が続いている時期であり、職人も熟練で固められていたという背景があります。また、巨匠と呼ばれる仕立て職人に直接師事した名職人も多い時期でした。
サルトリア期の作品は既に四半世紀が経とうとしているので、傷みや経年のない作品を探すのは難しくなりつつあります。同時に、その個体の生地の退色やほつれも含め、ヴィンテージとしての風格が宿っているのも事実です。単なる古モノで留まらない風格は、モノづくりの核心を突いた仕立てだからこそ宿るものです。我々も、それらを単なる傷みや瑕疵と捉えるのではなく、”個体”そのものの歴史やヒストリーも含め、愛用する価値観を併せ持ちたいものです。
対してチェザレ期の作品は、サルトリア期の仕立てを色濃く継いだ作品群を展開すると同時に、スタイルをはっきりと二分し、アプローチを多角化させた作品が多いといえます。
具体的には、かっちりと作りこむ伝統的なスタイルと、アンコン仕立てと呼ばれるような芯地なし/薄芯地の作品。仕立て方を変えることで、より多くのニーズと価値観に対応し、多様化に対応したブランドへ成長を遂げたと言えます。
全体的に言えるのは、緩やかにモダン化を進めることで野暮ったさを感じさせないと同時に、流行遅れも感じさせないバランス感を備えています。
一般的にスーツ/ジャケットの流行は5年も経つとすっかり様変わりし、細部のディティールでいつ買ったか・仕立てたか分かってしまいます。
そのため「昔買った服をそのまま着ている」感が強くなってしまうのですが、クラシコイタリアでそのような傾向は殆どありません。
特にアットリーニは安定感があり、クラシコの既成の王者たる「ブレのなさ」が魅力と言えるでしょう。
反面、アットリーニは後継の育成にも取り組んでおり、若手の職人が仕立てを担当することもあります。そのため既成個体は若干品質にバラつきがあるのは事実です。
ネット購入では立体構造の作り込みを判断するのは難しく、”クラシコは試着ありき”とされる理由の一つです。当店も店頭に並べるクオリティの個体は販売前に取捨選択している背景があります。
但し、これらはあくまで手作業に頼った生産体制だからこそ生まれるバラツキであり、高次元での話です。品質のばらつきを「サルトリア期と比較してクオリティが落ちた」と判断するのは早計と言えます。また同時に、未来ある若手職人を抱えているという事実は、衰退が叫ばれるクラシコの世界に希望を与えてくれます。
最後にMTO作品です。MTOは、「サルトリア期」「チェザレ期」どちらにも存在し、一見すると既成作品との見分けがつきません。
内ポケットに依頼主のネームタグが付いており(依頼主の要望で入れない場合も有り)、成分表示タグが付いていないことも多いです。しかしこれらは前所有者が手放すにあたって切り取っているケースもあり、これだけではMTOと判断できません。
一番は既成作品にはない独特の生地使いやパターン、そして仕立てのレベルの高さで出自を伺い知ることができます。
MTOはアットリーニが顧客に提供する最上級のサービスであり、そのクオリティは名だたるサルトリアの仕立に引けを取らないばかりか、並みのフルオーダーを凌駕するとも言われます。
豊富なストック/バンチブックから超がつくスペシャルなファブリックが用意され、人間の立体構造に合わせるべくその生地をアイロンワークで徹底的にクセとりし、縫製も熟練職人が担当します。
元々アットリーニが持つ「万人の体に合わせる設計力」も相まって、驚きのフィット感と格好良さを発揮します。他人が仕立てたオーダーなのに、既成品以上に体に合わせてくる、という不思議な体験ができるのがMTO作品です。
また、MTOは注文主のこだわりが詰まった個体が多く、「こんなオーダーが通るのか?」と信じられないような仕様や、「もはやビスポークでは」としか思えない独自の線が引かれているものも存在します。
当店でもMTO作品は数がなく、スペシャルな仕様と仕立てから販売単価も高額になる傾向にあります。しかしそのレベルの高さを知ってしまうと「フルオーダーこそが至高」という価値観が崩れてしまうほどの衝撃があります。
アットリーニは世界3大既成ブランド(ブリオーニ・キートン・アットリーニ)の中では最も小規模で、生産数も多くはありません。しかしその少数精鋭体制だからこそ小回りの利く提案や仕立てが可能であると言えるでしょう。
当店はアットリーニの魅力を再度多くの方に伝えていくべく、最も多くの仕入れをアットリーニのラインナップに割いています。
本格クラシコを2000年前後の一過性のブームで終わらせない。後世に伝えていくべき文化と技術であるという認識のもと、単なるリサイクルや中古という価値観を超えて提案していきたいと考えています。
後半のラインナップも非常に充実しています。今週末以降のご来店を心よりお待ちしております。
Artigiano-Tokyo Ginza