【マンスリーアーカイブ】5月テーマ『Unconstructed -非構築の過去と未来-』ルチアーノの魅力に迫る②

こんにちは。Artigiano-Tokyo Ginza(東京銀座店)です。

 

後半のブログでは前半のKiton(キートン)を創業期から支えた元マスターカッターが営むサルトリア、「オラッツィオ・ルチアーノ(現ルチアーノ)」についてご紹介してまいります。

日本ではルチアーノの知名度はあまり高くないのが現状ですが、今当たり前のようにジャケットスタイルに取り入れられている芯地無しの「アンコン仕立て(センツァ・インテルノ)」を世に流行らせたのは、他でもないこのルチアーノです。

オラッツィオ・ルチアーノ氏。若くしてカッターとしての才能を開花させ、Kitonをメガブランドに再生させたキーマンの一人。もともと強面な印象だが柔和で暖かな人柄であり、それが服作りに現れていると言える。【出展:The Sartorialist】

ブランド誕生は1992年。チェザレ・アットリーニがKitonのモデリストを退任してから数年後、ルチアーノもまたKitonから独立し新たなブランドを立ち上げる形となりました。
他のKitonメンバーと比較し一回りほど若く、若き天才カッターとして活躍した彼の工房は、ナポリの大御所ファクトリーの中では比較的小規模です。
基本的に別注やMTO(パターンオーダー)は受注せず、自らの工房が提唱するハウススタイルを忠実に守る傾向にあります。

高いゴージ位置、ややワイドなラペル、肩先にすっぽりと被さるような袖山、そして肩の曲線を増幅させるようなライン。こういった現代的なナポリスタイルをニュースタンダードとして根付かせたのがルチアーノ。自らのブランドを興してなお、その功績は大きい。

ルチアーノのモノ作りは初代当主のオラッツィオ氏のパーソナリティや哲学が強く反映されています。ナポリ仕立てらしい軽やかな着心地、伝統的な英国調のスタイル、そしてモダンかつ個性的なシルエットが共存しているのが特徴です。
ルチアーノはよくダルクォーレやアットリーニの作品と比較されます。現代的かつ個性的な解釈はダルクォーレと、クラシック=伝統的なナポリ仕立てに関してはかつての同僚の(チェザレ)アットリーニと競合しますので、比較対象に挙げられるのは必然といえるでしょう。

2000年中期の作品。成約品。柔らかな曲線を意識しつつもエッジの利いたスタイルが特徴。ルチアーノの魅力は典型的なナポリ仕立てにとどまらない独創性にあると言える。アットリーニほどかっちりさせたくない方、ソリートよりはソリッドな印象が欲しい方、旧ダルクォーレよりは王道でありたい方、ベルベストなどのマシンメイドからステップアップしたい方。そんなわがままなニーズに応えてくれるのがルチアーノの作品。

また、ハンドメイド(手縫いによる手業)が全面に施されるなど非常に手が込んでいるにもかかわらず、ルチアーノは非常にリーズナブルな価格設定となっています。
リーズナブル=量産やマシンメイド、あるいはコストカットといった先入観が先走りますが、ルチアーノに関してはその限りではない。というのが当店の見解です。
キートン時代のマスターカッターの経験が生きた型紙は、手縫い技術と相まって万人の体に自然にマッチしつつ美しい起伏を見せます。体への追従性はマシンメイド系とは一線を画しており、手縫いの本質をとらえたモノ作りがなされています。実際、当店代表の丹下がルチアーノの工房を見学する機会を得た際、ミシンの音が全く聞こえない空間が印象的でした。

ナポリ仕立ての要となる袖付けやバストラインは手縫いの要素が前面に押し出されている。センツァインテルノの火付け役と言われるだけあって、表情豊かな見せ方は巧み。サイズ表記は他ブランドと比較するとややタイト。ダルクォーレなどの感覚に近い。こちらは52表記のジャケットだが173㎝、70㎏のスタッフでほぼジャスト。【クリックで商品詳細】

グラマラスで動的な魅力に満ちたスタイルは、キートン時代とはまた異なるアプローチでナポリ仕立てを表現しており、古巣のキートンと明確な差別化が図られています。
ナポリ仕立てをより多くの人に知ってもらい、その手に取ってほしいという願いから、工房の規模を拡大することなく価格を抑え、古き良きナポリスタイルをルチアーノは貫いています。このようなオラッツィオ氏の考えを尊重し、当店も価格を抑えた展開を行っています。

ルチアーノの作品は主に・ラベラ期 ・黒タグ(旧名併記) ・シングルネーム に分けられます。
タグもシルエットも時代と共に変貌していきますが、どの年代も躍動感あるシルエットと運動性能を持たせた作り込みが特徴といえます。

ラベラ期の作品はオラッツィオ氏が独立した直後から2000年頃にかけ展開されたもので、「La vela Sartoria Napoletana」名義となっているのが特徴です。

作品傾向としては構築的な肩周りにハンド感溢れる袖付けや胸周りが同居しており、英国的なテイストを強く感じさせながらも、手縫いならではの情緒的な表現が随所に見受けられます。この頃から既にメリハリあるシルエットが採用され始めており、当時の流行からすれば非常に先進的な仕立てであったと言えます。

ラベラ期の作品。ダークグレースーツ。Size:44。かっちりとした肩回りとコンパクトな設計はアットリーニを彷彿とさせる。同年代のアットリーニと比較すると袖先の表現に特徴がある。よりギャザーのようないせ込みが目立ち、人に着せると何とも表現しがたいマッシヴさと柔らかさを醸し出す。171㎝ 58㎏のスタッフでジャストサイズ。【クリックで商品詳細】

こちらもラベラ期の作品。シングルジャケット Size:46 くすんだアイスブルーが何とも渋い。肩のパッドはかなり薄くなり、センツァインテルノの足音が聞こえる。ブランドの改称直前の個体と思われる。ラペルのステッチは勿論、AMFステッチではなく、ハンドによるもの。【クリックで商品詳細】

黒タグの「Orazio Luciano」は、ラベラから改名した2000年代以降、10年ほど採用された仕様です。タグ下部には上記のラベラ期との連続性を感じさせるLa vela Sartoria Napoletana表記が残っています。

ラベラ期の末期から黒タグ期にかけ、ルチアーノの代名詞となる「センツァ・インテルノ」の仕立てを採用した個体が増えます。
副資材を殆ど省いたスタイルはカーディガンやシャツのような柔らかさと気軽さを併せ持ち、その高いゴージラインでスタイリッシュさを表現しています。この頃から首筋に向かって駆け上がるような「ノボリ」が織り成す「ナチュラル・コンケープドショルダー」ともいえるショルダーラインがアイコンとなっていきます。

黒タグ期の個体。首の後ろに食いつくようにフィットする襟元。この部分のフィット感が着心地に大きく影響する。ここが抜けている(隙間が空いている)と重量分散が上手くいかずシルエットが崩れるばかりか、肩こりの原因にもなる。この設計力は一朝一夕では成し得ない、経験とセンスに裏打ちされたパターンだ。

袖ぐりの袖付けはふわりとしながらも力強いボディラインを演出し、Kitonなどの豊満さとはまた異なる肉体表現が持ち味です。ボディラインを増幅させるという意味では、形は違えどKiton時代のカッティング技術が存分に生かされていると言えるでしょう。
また、モデルによっては旧来の構築的なディティールを踏襲しており、そちらはより英国的な要素を強めるなど、二極化が進み始めた時期とも言えます。

カシミヤ/シルク/ウール の3者混。シングルスーツ。Size:46。このブランドがセンツァインテルノ一辺倒かと言えば全くそうではない。こちらは肩回りに構築感を残した1着。ゴージラインも少し下がり気味でクラシカルな印象だ。ルチアーノらしい柔らかな生地感を活かすべく袖付けのいせ込みはたっぷりととられているが、前述のような印象で羽織ると面食らうことになる。【クリックで商品詳細】

シングルネームは比較的新しい時代のもので、息子のピーノ氏に運営をバトンタッチし、オラッツィオ氏が生産現場の指揮を取り始めた時期です。
デザインはより二極化し、丸みを強調したモダンクラシコな作りと、クラシック回帰を強めた作り込みの2種類となっています。年代が新しいこともあり当店では取扱数が少ない部類に入ります。

モヘア/ウールのダブルブレストスーツ。Size:46。ダブルブレストだが何と3ピース仕様でジレが付属する。比較的最近の作品だが、袖付けは案外おとなしめ。ゴージラインはやや低く、ウェストラインのドロップも控えめ、更にジャケットはフラップポケットなど、一見するとルチアーノの作品と気づかないかもしれない。だがこのようなベーシックなモノ作りができてこそ、守破離が実現できると言える。【クリックで商品詳細】

当店が初めて本格的なクラシコイタリアに挑戦する方にお勧めしているのは、ラベラ期のものと黒タグ期のものです。
この年代の個体はクラシコの本流に相応しい手業を多用しながらもアンダー15万円とリーズナブルであり、何より今着用しても格好良い作品が多いと言えます。
「メリハリがある」とだけ表現するとテーパーの利いたパンツや攻めたタイトフィットを想像しますが、モダンと言えどもやはりそこはクラシコ。基本的にストレートを基調とした落ち着いたスタイルで、大人の落ち着きと風格を感じさせます。

スーツはジャケットとパンツが一体になってこそと言える。股上は深く、わたり幅もたっぷりとあり、それでいながら野暮ったいモタつきは皆無。「上質なスーツ」とは生地や知名度を主体で語るものではないと気づかせてくれる。

今回はルチアーノの作品を時系列に沿う形でご紹介できるようラインナップ。同じブランドであってもそのスタイルは異なり、体へのマッチングにも差異があります。
非常に多くのルチアーノの作品に恵まれた機会となりますので、吟味の上是非お選びください。

皆様のお越しをお待ちしております。

Aritigiano-Tokyo Ginza

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