【東京銀座店】9月後半テーマ『Another(アナザー)』クローズドな世界の先にある、もう一つのクラシコたち。

Artigiano-Tokyo(東京銀座店) 若林です。

9月のテーマはこれまでの当店にはない、クラシコイタリアのディープな仕立て品たちについてフォーカスしていきます。

当店は長年クラシコイタリアというジャンルに特化してきたショップですから、マニアックなアイテムも集まりやすい傾向にあります。
そんな中で当店としてもお初にお目にかかる、驚くような仕立て品もございます。

何故20年このお店をやっていながら、未だ見たことがないような仕立て品が出てくるのかというと、紹介制でのみ成り立つクローズドなお店、完全なる地場産業として地元でのみ細々と活躍する仕立て屋、がイタリアには多数存在するからです。
クラシコイタリアの伝統は欧州貴族のハイ・ソサエティが背景にあり、何よりイタリアの洒落モノにとっては、真夏でも着こむスーツ/ジャケットスタイルは必需品ですから、アジアに進出せずとも欧州圏の需要で十分に賄えてしまうわけです。

毎度のこと飲食に例えますが、料亭や寿司屋は日本に星の数ほどあれど、紹介制で住所すら明かしていない料亭も多数存在します。
これらの店がインバウンドやメディア広告に頼らなくとも存続し続ける理由と、まったく同じなのです。
スタッフも、ミシュランにすら載せない、ミシュランをもしのぐ名店の存在をいくつか知っているから尚理解できます。

食通、もといクラシシックウェア通をうならせるレベルのサルトリアが、今もひっそりコツコツと、凄まじい作品を顧客だけに仕立て続けているわけです。

今回は代表の丹下がひょんなことから存在を知ったサルトリアが御座います。
Sartoria Amato(アマート)です。

いきなり話してしまいますと、これらはイタリア仕入れではなく何と日本国内のお客様からの買い付けでした。
非常にマニアックなサルトリアですので、思わず『どうやって知ったのですか』と聞いてしまったほどです。

Amatoはナポリ郊外にアトリエを置く老舗サルトリアで、エンリコ・アマート氏が当主を努めているそうです。
そうです、というのも、この情報自体がコロナ禍前であり、近年の情報が全く出てきません。
当店が知り得ているのは、日本では全くの無名であるが、現地での仕立てに精通した人々はその名を知っているということ。
そして、その実物が恐ろしく手の込んだ本物のナポリ仕立てである、という事です。

今回、同一サイズ(44-45相当)が2着入ってきております。
袖が57㎝とやや短めですが、多少出し寸は御座いますので若干袖先から伸ばせます。
ではスタイリングに入ります。

ブルーチェックの個体。春夏向け素材となりますが、今年の気候だと10月末まで活躍するでしょう。
エンリコ氏はそれなりの老齢と聞いていましたのでイメージのみだとかっちり古典的な作りと思いきや、意外にもモダンです。
仕立てられたのはおよそ10年ほど前と思われますが、現在流行に左右されない独自のモダンスタイルを確立している時点で、既に”本物”判定です。

メリハリのついたシルエットで軽快感がある、と言ってしまえば『いつものナポリ仕立てだね』で終わりなのですが、その実力は肩のラインを見れば納得でしょう。

一流の仕立て職人でこそ表現できるコンケープド・ショルダーです。
正面から見ると、前肩あたりにワイドでたっぷりとした面積を感じます。
柔軟な印象のジャケットに豊かでマッシヴな筋肉を演出するスタイルは、ほぼ芯材を使わない仕立てに薄芯地を効果的に配置することで実現します。
が、口で言うのは簡単ですがこれは相当難しく、やろうと思って実際に表現できる仕立て屋がどれだけいるか、です。

近代のナポリ仕立ては芯材に頼らず、人という骨格に覆われた時にその形を顕在化させる仕立てです。

ハンガーに掛っているときは生気を失った『無』のような存在感ですが(わかる人にはハンギング状態でもある程度わかるのですが)、
羽織った途端、仕立て人の姿が服のシルエットとして具現化します。
※このナポリ仕立て特有の現象は、JOJOのスタンドみたいなものだとスタッフは勝手に思っています。

高度な手仕事が洗練され続けて行き着いた先は、もはや人間の手業の限界に到達していると言えます。

着用スタッフは172㎝ 58㎏で胸板が非常に薄くなで肩という『いかにもイマドキの日本人な』、平面的な体型をしています。
それをここまで詰め物なしでバルクアップさせるわけですから、ナポリ仕立ての持つ有機的な印象はまさに”人の体の一部となるため”だと気づくでしょう。
丹下も『旧ナポリ四天王(大御所サルトリア)に匹敵する』と感じた瞬間でした。

こちらは斜縞ストライプ。目の錯覚でライトブルーに見えますが、白と紺色のバイアス織りです。
中肉厚でコシのある良い生地です。

肩のラインは後頭部に向かって強烈にせり上がるスタイルですので、有名どころですとSolito(ソリート)やPirozzi(ピロッツィ)がお好きな方は刺さるでしょう。
ラペルがくるりと深くロールしているフロントラインも、前ボタンを留めず颯爽とした雰囲気を出したい方にはピッタリです。

ちなみに今更ですが、ナポリ仕立ては脇横に斜めの皴が入るものがあります。
『タスキジワ』と勘違いされることもありますが、ナポリ仕立ての場合設計として組み込まれている場合が殆どです。
腕の可動域を残すためにクセ取り(アイロンで生地の繊維の向きを変え、生地を”伸ばす”業)段階で考慮されており、大なり小なり出ますのでフィッティングの際は参考になさってください。
※画像では腕を後ろに沿っているため通常より皴が出ています。

今回『Another』をテーマとしたアイテムとあり、Amatoはかなり手の届きやすい価格としています。
正直クオリティからして値付けを間違えたかな…というレベルです。汗

他にもSartoria Mannaといった、これまた尖った個体が入ってきていますが、語り出すと先が見えませんので一旦お写真だけにしておきます。

こちらも気になる方は店頭、またはお問合せ下さい。

表舞台で輝くサルトリアの更に”その奥”のサルトリアの片鱗を見ることができるのは、当店も恵まれた立場だと思います。
有難いことに、『当店であれば』という形でお譲りいただくアイテムがたくさん御座います。
こうしたものを単なる消費ではなく、大切に形として残していくのも当店の役目だと思います。

最後に代表の丹下の在店期間ですが、9月は20(土) 21(日)の2日間です。
平常通り、下取りでのお買い物の場合査定額が20%アップする『トレードアップ』キャンペーンの期間となります。
サイズアウトしたもの、お好みが変わったものなどがクラシコイタリアで御座いましたらご相談ください。

当店はInstagramでの投稿を積極的に行っておりますので、まだフォローされていない方は是非ご覧ください。

今月のテーマもどうぞよろしくお願いいたします。

Artigiano-Tokyo Ginza

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