【1月マンスリーテーマ】ナポリ仕立ての『構築』とは⁉︎②〜コスタンティーノ(フェリーチェ・ビソーネ)に見る”原点回帰”

Artigiano-Tokyo Ginza (東京銀座店)店長の山田です。

今月のテーマも折り返しになりました。
前回の内容に引き続き今月のテーマ『ナポリの構築』についてお話します。

ナポリ仕立てとは何か?ですが、
『あくまで”仕立て方”を指すものであり、特定のハウススタイル(構築的、ナチュラルといったディティール)を指すものではない』ということを前回お伝えしました。

意外に思われるかもしれませんが、アンコン仕立て(unconstructed=非構築)、そしてセンツァ・インテルノ(芯地無し)と呼ばれるスタイルは、数あるナポリ仕立ての”表現方法”の一つに過ぎません。

では伝統的なナポリ仕立てのディティールには、どのようなものが挙げられるのか?
と言えば、やはり『英国調』でしょう。
これにはナポリを代表するサルトリアの名門『ロンドンハウス』の影響も大きいとされます。

ロンドンハウスは2000年代初頭に一族の名を冠する『ルビナッチ』に改称し、現在も営業と続けている。現ルビナッチ・旧ロンドンハウスともに当店への入荷頻度は極端に少ない。今回のテーマに合わせて1着のみ東京銀座店で展示販売予定。

『ロンドンハウス』は初代”ジェンナーロ・ルビナッチ”が、”ヴィンツェンツォ・アットリーニ(あのアットリーニの初代人物)”をキーマンに迎え、今から97年前に創業した老舗中の老舗です。
この2人はルビナッチの義父の店で共に働いていた仲間でありました。

ナポリでは英国的な紳士スタイルは一種のステータスでした。初代ルビナッチも、その店名の通りロンドンハウスを『サヴィル・ロウの仕立てを受け継ぎ、サヴィル・ロウの延長線上にある店』と位置付けていました。
そのような背景も影響し、ナポリの歴史の中で格調高い仕立てと言えば『英国調』なのです。

ルビナッチ(旧ロンドンハウス) ネイビースーツ Size:46eq ¥185,900-(tax in) ルビナッチはナポリ仕立てとしては比較的かっちりとしたシルエットの王道スタイルで、肩のコンケープド(弓なりの曲線)はあまり強調されない。スタッフの体型よりハーフサイズ小さい個体のためウェストラインが綺麗に出ないのが残念だが、インターナショナルな場で通用するバランス感に冨む。

しかし、英国調が至高とされた時代、初代アットリーニのライバル的存在である伝説的な仕立て職人が、もう一人存在しました。
それが前回紹介した故:フェリーチェ・ビソーネ氏の師匠に当たる『ロベルト・コンバッテンテ』。
今回のテーマにかかわる重要な人物です。

フォルモーサ(非売品)  コンバッテンテにはビソーネ、パニコ以外にも多くの教え子がいた。ナポリの大御所:フォルモーサもその一人だ。日本での知名度は低いがナポリの仕立て業界で知らない者はいない、超ビッグネームである。気品と力強さを宿したショルダーラインの曲線には、やはり師の面影を残す。教え子の多くが大成し、その仕立てがナポリで生き続けていることからも、偉大さを垣間見ることができる。

以前のブログで『初代アットリーニがナポリ仕立ての開祖』と取り上げましたが、もう一人の開祖と呼ばれる人物がこのコンバッテンテ氏です。
初代アットリーニが貴族から愛された光の下の実力者であれば、コンバッテンテ氏は奥ゆかしく控えめな影の実力者でした。
彼の功績のほとんどが歴史に埋もれ、知る者が少ないとされます。

しかしその天才的な仕立てを知る者は確かに存在します。それが大成した弟子たちでした。
バイブル的良書『ナポリ仕立て 奇跡のスーツ(集英社 2006年発刊)』の中で、弟子の一人であるアントニオ・パニコ氏は、当時取材に対しこう答えています。

『世間ではナポリ仕立てと言うとアットリーニを讃えるがそれは正しい認識ではない』
『史上最高のサルトは、私の先生だ』

パニコはかつて初代アットリーニの後釜としてロンドンハウスに招かれた人物ですが、”最後にして最高のマエストロ”と呼ばれ、多くを語らないパニコ氏にここまで言わしめる存在が、コンバッテンテ氏だったのです。

パニコ ビスポークスーツ(非売品) パニコの作品は他の弟子たちと比べるとパッドの存在を感じさせず、肩線はナチュラルなコンケープドで表現される。また、表舞台での活躍もあってグラマラスでモダンな解釈に長けているといえる。同時に、コンパクトにまとめたショルダーラインはやはりコンバッテンテ氏の美的感覚に通じるものがある。

更に本テーマの軸であるビソーネ氏も、取材で以下のように答えています。

『(パニコについては何も語りたくないが)コンバッテンテ先生は最高のサルト・フィニートだった。』
『彼は天才だ。パーフェクトだった。』

個人主義が重んじられるナポリにおいて、第三者の前で師を褒め称えることは異例です。犬猿の仲とされるパニコ氏とビソーネ氏が、口を揃えて師への敬愛の念を語るという事実に、彼らにとっていかにコンバッテンテ氏が偉大で、愛すべき存在だったか伺えます。
※この取材の中では、コンバッテンテの功績についてナポリ仕立ての定説を覆す衝撃的な証言がいくつも語られています。

故:ビソーネ氏は基本的に表舞台に出ることはなかった。自身が注目されることを嫌い、故郷のカサルヌオボでひたすら服を仕立て続けた。ビソーネはパニコの幼馴染みでもあるが、仕立ての世界でシノギを削る中で袂を分かつことになってしまったようだ。師と同じく、困ったときの駆け込み寺としてもビソーネの技術は卓越していた。事実、ナポリ仕立て好きなら誰もが知るナポリ四天王の下請けも、彼が行っていた。その立ち位置や同世代とのライバル関係は、師であるコンバッテンテ氏を彷彿とさせる。

ナポリ仕立てを代表する巨匠へ育った多くの弟子たちが、その原点(ルーツ)を冒頭の名店ロンドンハウスではなく、いち仕立て職人であるコンバッテンテ氏に見出しているという点は、非常に興味深いことです。

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コンバッテンテ氏に師事したサルトの中で、彼の仕立てを最も忠実に守っていたのが、ビソーネ氏とされます。
彼の仕立てる服の特徴は、反り返るようなコンケープドショルダーから生み出される気品。
フロントライン(前裾)のフレアカットは華やかでありながらやりすぎない、”これ以上ない”と言いたくなるバランスです。

 

コスタンティーノ名義のビスポークジャケット Size:48eq ¥209,700-(tax in) パニコ等と比較するとツイードや目の詰まった張りのある生地を積極的に用いるようだ。重厚で構築的な肩回りでありつつ、曲線が交錯する優しげなニュアンスも残す。動作に硬さのない軽快感もあって、コーデュロイなどカジュアルなパンツとの合わせも◎。

対して、袖山(肩先のこと)は柔らかなシルエットであまり誇張せず、奥ゆかしく仕立てているのが特徴です。
メリハリの中に宿る優しいシルエットで、威圧感を与えにくいのもポイントでしょう。

肩山。その生地感もあるが、あまりマニカ・カミーチャは主張させない。堂々としながらこれ見よがしさがなく、真面目な作りだ。イタリア南部はルーズだとか適当だとかいったイメージは、彼の仕立てを見ているとごく一面に過ぎないと気づかされる。

生地をしっかりといせ込み、脇下が高い位置にある詰まったアームホールなど、師から教わったナポリ仕立てを忠実に守っています。

コスタンティーノ名義のビスポークスーツ Size:48eq ¥207,900- (tax in) コスタンティーノは出張仕立て屋の通り、ビスポーク個体しか存在しない。こちらも堂々たる個体だ。パニコより重厚な風格を持ち、よりクラシカルな仕立てを好む人にコスタンティーノは刺さる。これらのショルダーラインを堪能するには、ある程度肩幅がある体型が有利かもしれない(スタッフは肩幅、胸囲とも平均より大きめの撫で肩)。ジャケットはビソーネ、パンツはあのモーラ一家の仕立てという夢のコラボレーションにも拘らず、このプライスは驚きと言える。

そのハウススタイルもさることながら、フィッター:コスタンティーノ氏とのタッグブランド『コスタンティーノ』は、顧客のもとに出向いて採寸するという昔ながらの『出張採寸の復権』も担っていました。
ビソーネ氏とタッグを組んだ当時のコスタンティーノ氏はまだ20代。クラシコイタリアに『今』求められるものは何かをフィッターである彼が落とし込み、ビソーネ氏にアウトプットすることで生まれた『ナポリ仕立ての原点回帰』が、コスタンティーノと言えます。

コスタンティーノ名義の作品。ダブルスーツ Size:42‐44eq かなり古い個体で、前オーナーが愛着もって着続けていたことから、修復痕などを含め正直コンディションはヴィンテージ。しかしその作りこみはビソーネと師であるコンバッテンテ、両氏の魂が宿っているかのような名品だ。身震いするようなコンケープドと、優しく持ち上がる肩山。厳かでありながら柔和な佇まいも併せ持ち、魅力を語る上でもはやコンディションは価値基準にない。本テーマの中でもトップクラスの逸品で、手放すのが惜しいアーカイブ品。

日本ではあまり名の知られていないコスタンティーノ=ビソーネ氏の仕立てですが、その実ナポリのトップに君臨するサルト・フィニートの一人であり、ナポリ仕立ての原点を知る数少ない人物です。
ビソーネ氏は2022年に逝去し、新たな仕立てを手にすることはできません。しかしナポリ仕立ての持つ文化や意義を世に広めるため始めたコスタンティーノの試みは、ナポリ仕立てに新たな風を呼び込みました。

コスタンティーノ名義 ビスポークジャケット Size:46eq 先に紹介した個体らと比較するとコンパクトな仕立て(※サイズではなく、設計)が特徴の一着。このシルエットはやはり人が着ないと出せない。ビソーネもパニコも、師の天才的な技術だけでなく、温かい人柄だった師を心から尊敬し、リスペクトしていたという。技術だけでは表せない精神部分が、モノ作りを通して継承され、ハウススタイルとして具現化していることに感動を覚える作品。

彼らの生み出した仕立て品に敬意を持ち、当店もその素晴らしさを後世に残していけたらと考えています。

明後日1/18(木)はいよいよ後半便の到着です。
当店としても手放すのを躊躇する弩級の貴重品を追加投入します。

オーナーの在店期間も今週末20-21日ですので、ぜひコスタンティーノやパニコを主とする“ナポリ仕立ての構築”の魅力に触れて見てください。

皆様のお越しを心よりお待ちしております。

Artigiano-Tokyo Ginza

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