1947年 シチリア タオルミーナ生まれ。
10歳の時にサルトの仕事に出合い、ローマやミラノにて修業。
イタリア屈指の名門サルト”DOMENICO CARACENIドメニコカラチェニ”にて1970年代当時イタリアで最も偉大なサルトと称されたジョバンニ・リズーリア氏に師事する。
1975年 弱冠28歳でミラノで自身の工房を開き独立。
1997年 Via Gesu「フォーシーズンホテル前」に移転。
その工房にて熟練した弟子たちとともに12時間以上も腕を振るった。
シチリア出身のこのカリスマは、幼少時より学校からの帰宅後に地元テーラーに身を預け、針を自由に操っていたそう。
興味深いのは、ナポリでも多くのサルトがこの同じ経歴をふみ、そのままデビューするのだが、彼を他のサルトと大きく異ならせる要素は、 幼少よりの経験だけに頼らず、ミラノでSARTOTECNICOという裁断の学校に通い、基本的な理論/知識の習得に励んだという点。
また、最終的に修行の場となったミラノのDOMENICO CARACENIでは、その華やかな社交界で培われた美的感覚などを開花させ、流麗なテーラリングのスタイルが確立されたようだ。
つまり、他と全く異ならせるのは、感覚と理論をバックボーンとする希少なサルトと言えることだろう。
注文から完成まで約1年。
世界中の経営者や法律家、医師らがここぞの場面で着る勝負服にと、引きも切らずにオーダーしていく。
有名人や富豪のオーダーも尽きず、そのため、他ブランドより袖を通すまでかなりの時間を要する。
でも、いつかは中身を伴わせつつ、袖を通したい逸品である。
しっかりと肩が構築されている中で、首に至るまでの曲線が美しい。
ややモードな雰囲気すら感じる。いや、ミラノのモードブランドがこのテイストを取り入れているのだと実感する。
ナポリとは全く異なる造形美。
どちらのスタイルも美しいし合理的だが、イタリアの北部と南部での美的価値観の違い、人体に対する構造的理解の相違がはっきり表現されている。
氏のスーツは構築的な重厚感に英国の影響が色濃く残る、まさにイタリアンクラシックの極みであり、特徴的なディテールなどはない。
だが、立ち姿はもちろん、動いた際もスーツが身体に追随し、ブレずに凛とした美しさを保つ。
こうした仕立ては、ティンダロ氏の長年にわたる研究と卓越した技術、そして妥協を知らない職人魂の賜物である。
周囲から見られる立場であり、常に威厳を問われる名士たちが同氏のスーツをこぞって求めるのは、それがいつ何時、いかなる視線からも美しく映える、無二のスーツだからに違いないだろう。
「細かな仕事の違いが蓄積し、最終的には大きな成果となって表れる。それこそ私のテイスト」
ティンダロ氏のこんな言葉を聞けば、完成までの日々すらも心躍らされるではないか。
プレタの最高峰に”Kitonキートン”があるなら、やはりサルトの最高峰のひとつはルカをおいてないだろう。