【マンスリーアーカイブ】5月テーマ『Unconstructed -非構築の過去と未来-』Kitonとルチアーノの魅力に迫る①

こんにちは。
Artigiano-Tokyo Ginza(東京銀座店)です。

ゴールデンウィークは沢山のご来店誠にありがとうございました。
当店としても非常に活気のある10日間となりました。

今月のテーマは「Unconstructed」
”非構築”の過去と未来がテーマです。

先月のテーマでは「ナポリの構築」の根幹を担う既成ブランド:アットリーニの新旧モデルを取り上げましたが、今回は非構築的なナポリ仕立てを最大公約数に落とし込み、「既製服を超えた既製服」で一躍有名となった「KITON(キートン)と「オラッツィオ・ルチアーノ」にフォーカスします。


この2ブランドの共通点は、「非構築的なモノ作りを得意としている」だけではありません。
キートン、ルチアーノ、更に前述のアットリーニは、非常に密接な関係にあると言えます。

今回のブログでは「世界で最もラグジュアリーな既成服」の一つとして知られ、「世界で最も美しい服」をテーマに服を仕立て続けるキートンに触れます。
1969年に生地商の家系であったチロ・パオーネにより興されたキートンその創業期は、のちの時代を牽引することになる若きスターたちによって支えられました。

創業者: チロ・パオーネ氏(左)。創業当時は小さなファミリーブランドだったが、現在は850名を超えるスタッフを抱え、欧州を代表する総合ラグジュアリーブランドの一つへと発展した。当時のナポリ仕立ての危機的状況を憂い、当時新進気鋭のメンバーを招集。文化継承とナポリ仕立ての立て直しを図った。数多の現存ブランドに影響を与え、ファッション界に名を残すレジェンドだ。出典:Italist.com

当時招集されたのは「ISAIA(イザイア)」創始者のエンリコ・イザイア、生地メーカー:「カルロ・バルベラ」の2代目であるルチアーノ・バルベラ、のちに「チェザレ・アットリーニ」を興すことになるチェザレ・アットリーニ、そしてオラッツィオ・ルチアーノです。
この錚々たる顔ぶれからも、チロ・パオーネ氏が本気で「最上の中の最上」「プラスワン」を目指そうとしていたのが窺えます。

キートンが創業当初から現在のようなナチュラルシルエットなのかといえば、そうではありません。当時はまだ英国スタイルがナポリ下他のベースとなっており、チロ・パオーネが目指す非構築的な「最高のナポリ仕立て」は半世紀近くの年月をかけ醸成されていったと言えます。

構築的なモノづくりの否定というより、生地との相性を含め最高の仕立を行うために行きついたのが非構築的なモノづくりだった、と表現するのが正しい。非構築と言えどもキートンは完全なアンコン仕立ては作らない。「カーディガンのよう」という表現も誤解を招きがちだ。キートンは肩から胸にかけて非常に薄く、張りのある芯材を用いており、独特の着心地と重量バランスとなっている。

キートンが得意とするのは、キートンの為だけに織られる表情豊かなエクスクルーシブ(専用)生地。カルロ・バルベラを傘下に持ち、自身も生地商出身のチロ・パオーネならではの、ファブリックの品質や独自性に徹底特化した体制となっています。
これらの生地の波打つようなドレープと豊かな発色、肌に溶けてしまいそうなほど滑らかなタッチは、キートンが標榜する「最上の中の最上に、さらにもうひとひねり」を体現しています。

Kitonといえば生地、というほどに生地の専門性に長けている。事実、Kitonは高級生地メーカー「カルロ・バルベラ」を傘下に収めており、他にも名だたるトップミル(織メーカー)に、当ブランドのためだけの生地を織らせている。初期メンバーのエンリコ・イザイア(ISAIAの創業者)も、チロ・パオーネ自身も生地商の家系。取り扱う生地への拘りは並大抵のものではない。「エイクスクルーシブ(独占)な生地」という表現は、キートンのためにあるようなものだ。

同時に硬質で構築的な仕立てでは、これらの生地のポテンシャルを発揮しきれないのは想像に難くありません。時代の流れと共にキートンは徐々に姿を換えながら現在のハウススタイルに行きつきます。

Kitonのタグには主に『旧タグ』『現行タグ』『mod.LASA』『チロ・パオーネモデル』が存在します。

旧タグは主に~1990年代頃までの個体で見られ、ぽってりとした味わいあるフォントが特徴です。仕立ての表現としては肩パッドはしっかりと残し、やや構築的と言えるでしょう。

2000年代以前の個体。Kitonは年代やモデルによって頻繁にフォントを変えるため特定が難しいが、リデアによる正規輸入前の個体は判別が容易。日本への進出当初、服単体ではまるで力のない出で立ち、袖付けのマニカカミーチャは縫製不良と勘違いされるなど散々だったという。Kitonを始めとするサルトリアが数十年もかけて醸成したスタイルだが、その過渡期を飛ばしていきなり日本に上陸した形のため、アメトラ・ブリトラに慣れ親しんだ日本人にとってカルチャーショック過ぎたのかもしれない。

ウェストを強く絞るようなシルエットは少なく、ゴージ位置も低めと、一見クラシックの王道とともいえるスタイルです。但し胸周りの芯材は非常に薄く、同年代のブリティッシュスタイルとはまるで異なります。そのスタイルに合わせ肉厚な生地をチョイスしつつも、どれもしっとりと肌に吸い付く一級品。色柄は落ち着いた中に奥行きがあるシックなチョイスが多め。キートンの独自性が遺憾なく発揮されています。現行のドロップショルダーが合わない・クラシックスタイルが好きという方には、当店ではこの旧タグをお薦めしています。

現行タグは2000年代以降から採用され、ややスタイリッシュなフォントとなりました。
それに呼応するようにシルエットも洗練されています。クラシックなKBラインとモダンなATラインが現在の主力となっており、従来の独特なシルエットを踏襲しつつも、輪をかけてラグジュアリーな世界に落とし込まれています。

ATモデルベースの個体。Size:46-48。袖ボタンはつけてあるが仕付け糸を外していない未使用品。Kitonの中ではコンパクトでスタイリッシュな印象となる。肩先がコンパクトな分、やや構築的な印象さえ受ける。だが着心地はやはりKiton、さすがの一言。こちらの個体にはDiamante Blu というエクスクルーシブ(専用)生地が使用されており、英国の小さな工場でKitonのためだけにヴィンテージ低速織機で織られている。その生産能力の限界もありKitonでも見かけえることはほぼない。【クリックで商品ページ】

体をやさしく包み込むKiton独自のナチュラルラインは、21世紀に入ってから完成したと言えるでしょう。
2017年に創業者のチロ・パオーネが世界的なファッションの祭典”ピッティ・ウォモ”で史上3人目のピッティ・イマジネ・キャリア・アワードを受賞(1人目がニノ・チェルッティ、2人目がジョルジオ・アルマーニ)したことで、ファッション好きの羨望の的として、世界で最も羨まれるハウススタイルの一つになりました。

ネイビージャケット。Size:46-48。肩をつまんでみると綿芯の存在を確認できる。ナポリ仕立て=アンコン仕立てという価値観のままKitonに触れると面食らうことになる。そういったイメージはマーケティングで増幅させられたものに過ぎない。肩先は自然にドロップし、ビルドアップすることはない。威厳こそあれど、威圧的な雰囲気は全く感じさないまま、ボディラインを豊かにみせる。【クリックで商品ページに移行】

全体的に体に厚みのある方で、あまりかっちりした雰囲気を出さず大人の余裕を醸し出したい方にお勧めしています。

mod.LASAはKitonが限定生産する特別モデルで、幻の逸品とされます。個体には製造枚数とシリアルが刻まれ、手にできる顧客も選ばれたごく一部とされます。当店でもほぼ入荷がありません。

Mod.LASA。一見生地タグのようだがモデル名(そもそもクラシコイタリアの世界では自社製以外の生地タグをつける事はほぼない)。当店への入荷も数年に一度といったレベル。

大きな特徴はフロントダーツがナポリ伝統の貫通の仕立となっており、他のモデルと比較するとやや構築的な要素もあるなど、より「ナポリの伝統」に根差した作り込みと言えます。

Mod.LASA。シングルスーツ。Size:44-46。Kitonの中では異例なほど構築的でメリハリあるシルエット。着用してみると肩先の自然なラウンドはやはりKitonだが、モダンでありながら伝統的なナポリ仕立てに敬意を表した作り込み。【クリックで商品画像】

上記と同個体。胸から続くフロントダーツ(生地のつまみ)がポケットを縦断し、裾先まで向かっているのが分かる。ナポリ仕立ての典型的な仕様の一つだが、Kitonではほぼ採用されず、このLASAくらいだ。

一説によると職人による「丸縫い(一人の職人が全ての縫製工程を担当する)」で仕立てられているとされ、Kitonレベルのビッグブランドで丸縫いを行うことは通常あり得ません。Kitonが最高のファクトリーであると同時に最高の「仕立て屋」であるという姿勢が、この最上位モデルに込められていると言えます。

最高の技術を擁し続けるKitonの過去、現在、そして未来を繋ぐ、名実ともにフラッグシップモデルです。

最後がKitonのもう一つの最上位ライン「ciropaone チロパオーネ」モデルです。世界で最も格調高いセレクトショップと言われた「タイ・ユア・タイ」別注仕様として仕立てられており、Kiton創業者の名を冠する通り、最高の手仕事が施されています。

チロ・パオーネモデルはロゴも専用。一見するとKiton製とは分からない。Kitonは着ないが、このチロ・パオーネモデルだけは着るという人もいる。サイジングもKiton名義のものとやや異なり、スタッフの所感としては気持ちコンパクトな印象。

その優美なパターンと、生地選定から縫製に至るまで筆舌に尽くしがたいクオリティを発揮。タイ・ユア・タイがフィレンツェのショップであることからも、随所にフィレンツェ仕立てをリスペクトした意匠を用いており、他の何ものでもない、「チロ・パオーネ」モデルとしての存在を確立しています。仕立てはもはや熟練の仕立て屋そのものといったところで、並みのビスポーク個体では太刀打ちできない凄みが宿ります。

チロ・パオーネモデル。カシミヤスーツ。Size:52。最高の既製服と最高のセレクトショップによる、いる種の究極を目指した1着。Kitonの本拠地であるナポリとタイ・ユア・タイの本拠地のフィレンツェではまるでジャケットのスタイルが違うが、このモデルはところどころに華やかなフィレンツェのエッセンスが加えられている。【クリックで商品ページ】

メインラインの個体だと上手くハマらないという方も、チロ・パオーネであればその立体の作り込みもあって綺麗にまとまることがあります。

今回は新商品化された個体も含め、新旧作品を一挙に公開。特別なモデルが目白押しです。
Kitonのスタイルがどのように変化していったのかをラインナップを通してお伝えすると同時に、同じブランドの中からご自身に合うスタイルを見つける楽しさを感じて頂けたらと思います。

更に後半は、そのKitonでマスターカッター(裁断に於ける最高責任者)を務め、現代ナポリ仕立ての潮流を決定づけた仕立て職人『オラッツィオ・ルチアーノ』の作品について取り上げていきます。

【オーナー在店日のお知らせ】
今月の名古屋店オーナー 在店日は5月18日(土) 19日(日)の2日間です。

毎月恒例のトレードアップフェアも同時開催。
お手持ちのクラシコウェアを下取りに、
当店でのお買い物に充てて頂ける機会となります。
※時間帯によってはオーナー不在の場合御座います。オーナーによる接客をご希望の方は、恐れ入りますがメール(お問い合わせフォーム・各種SNSDM)、お電話にて希望のお時間をお問い合わせ下さい。

Artigiano-Tokyo Ginza

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