【11月】ナポリの巨匠から読み解く、『人ありきのスーツ』ナポリ仕立ての再定義と本質。

 

こんばんは、Artigiano ciao 東京銀座店です。

 

今月は、イタリアにおける伝統的なクラシックウェア、
クラシコ・イタリアの黄金期を築いた、
アントニオ・パニコ
ジェンナーロ・ソリート
ヌンツォ・ピロッツィ
このナポリの3大巨匠の作品にフォーカスすることで、
ナポリ仕立ての在り方とその定義について迫ります。

1990〜2000年代、ナポリの仕立て文化が世界的評価を獲得した中で、
圧倒する実力で『ナポリ四天王』と呼ばれた人物たち。
その4名のうち、存命となる3名が本テーマのキーマンとなります。

 

そもそも、クラシコ・イタリアの中でも「ナポリ仕立て」は特異な存在です。
それはナポリ仕立ての成り立ちにあります。

第二次世界大戦後のイタリアでは、政治・経済の中心が北部に集中し、
服装の標準化・官僚化が進みました。
「スーツ=社会的制服」という価値観が広まり、それがエリート層の象徴となりました。
これはスーツの源流であるイギリスの文化的価値観が反映されているといえます。
本来スーツやジャケットは第三者への礼節を示すための記号という側面があり、
現代でも貴族階級や社会的制服としての“帰属性の象徴”と捉えられることもできます。
この「様式」としてのスタイルを色濃く残しているのが政治都市ローマの仕立てや、
工業都市であるミラノの仕立てです。

しかし、その潮流に違和感を覚え反発したのがナポリの職人でした。
彼らはスーツを社会的地位や職業を示す“記号”としてではなく、
個の哲学や美意識を表現するための服として捉えていました。
それは長い混乱の歴史の中、イタリアが手にした自由の象徴でもあったのです。
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「人間が服に合わせるのではなく、服が人に合わせるべきある」。
この思想と、帰属への反骨精神こそが、”ナポリ仕立て”の定義を
より強固なものにしていきます。

ナポリ仕立ては単に軽量化や弛緩を目的とするのではなく、
イギリスやミラノの源流にある構築的な仕立ての型を深く理解したうえで、
人体を主軸に据えて服の構造を逆算する
というものでした。
これは構築された被服の中に人が内在するという甲冑的発想であった
スーツの仕立てにイノベーションを巻き起こしました。
その精神は、三者三様に発展したナポリの巨匠達にも共通しています。

 

 

【Solito(ソリート)】 現代ナポリ仕立てのニュースタンダードを築いた継承者:ジェンナーロ・ソリートが率いるサルトリア。クラシコイタリアの定義を、ある意味最も忠実に洗練させ、軽快さとスポーティさを追求したスタイル。過去紹介ブログ

 

 

戦後、大量生産とファッション産業の台頭によって
多くの職人仕事が消えつつある中、
アントニオ・パニコらは
「技術を残すこと=これらの文化を守ること」
という意識を明確に持っていました。

彼らは服を作るという行為を単なる経済活動ではなく
文化継承として再定義し残そうとしました。
それが1980年代のクラシコ・イタリア協会への
設立にも繋がります。
戦後の均質化・大量生産・形式主義に対する
“人間中心の再定義”という静かな革命です。

【Panico(パニコ)】 卓越した技術と感性によって“生きる伝説”と称される存在:アントニオ・パニコが率いるサルトリア。 その仕立ては3者の中で最も威厳にあふれ、英国的でありながら、特有のマッシヴさ、そして軽やかさを併せ持ちます。過去紹介ブログ

アリストクラティック(貴族階級的)な正装から
生活の服へと進化したナポリ仕立ての革新は、
上流階級の礼装の場ではなく日常の延長として
洋服を美しく仕立てようとした点にあります。
それは「機能性と、美」を一致させる思想でした。
つまりナポリ仕立ては合理性の延長にある自然さ、
生活の美意識を取り戻す運動そのものだったのです。

気候・生活リズム・身体性に適した構造。
実用的で生活的なニーズが反発力となり、
「社会的制服としてのスーツ」から
「生活者のためのスーツ」へと脱皮をはかった
存在だととらえれば、
実はナポリ仕立ては私たちにとっても
身近な存在だと気づくはずです。

職人が人生を懸けて自らの「ハウス・スタイル」
なるものを確立し、着用者は自らの生き方の証として、
その仕立て品とともに人生を歩む。

作り手と着用者、服が持つ価値観が一体となることで、
はじめて服は“カルチャー”として息づき、
現在から未来へと生き続けていくことになります。

【Pirozzi(ピロッツィ)】3大サルトリアで最も現役色が強いヌンツォ・ピロッツィ。作り込みに特に定評がある彼の作品は広くとられた肩線が印象的。ピロッツィの生きざまは、まさにサクセスストーリー。その仕立ては躍動感は着る者、見る者に直情的な興奮と感動を与えます。過去紹介ブログ

イギリス的な仕立てとは異なる視点から、
人間的で、ヒューマニズムに根ざした仕立て
を目指したナポリ仕立て。
それぞれ異なるハウス・スタイルを持ちながらも、
その根底には“ナポリの血脈”が流れているといえます。

今回、東京店10周年を記念し、
ナポリ仕立ての黄金期を支えてきた巨匠たちの、
全盛期の作品を全身全霊でコレクションいたしました。
長年にわたり現地の職人たちを訪ね、
交流を重ねる中でようやく実現したラインナップです。

今月は、ナポリ仕立ての真髄を一挙に体感できる、
特別な機会となります。
皆さまのご来店を心よりお待ちしております。

Artigiano-Tokyo Ginza

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