こんばんは。
Artigiano-Tokyo(東京駅前店)です。
いきなり衝撃的なタイトルですが、クラシコ・イタリアに特化する我々が声を大にしてお伝えしたい内容です。
日本人が想像する”イタリアスーツ”。
なで肩で自然なラインのドロップショルダー。
芯材の入っていない、柔らかな仕立て。
攻めたタイトなフィッティング。
このようなイメージであるはずです。
『イタリアスーツのあの形が苦手なんだよね』
『軟派で、キザなイメージがある』
そんな声も聞こえます。
結論から言えば、全くの間違いです。
このスタイルは、南イタリア地域(ナポリ)に根づいたディティールのほんの一部や、流行のモードなテイストをマーケットが拡大解釈しているにすぎません。
日本では”分かりやすいイタリア的アイコン”を『これがイタリアだ!』と捉えがちです。
イタリアは、我々が思い描くよりもはるかにカオスなスーツ創りをしています。
例えるならば、ラーメン店並みのバリエーションがあります。
※大げさではなく、20世紀後半にはナポリだけで1万人を超える仕立て職人が
存在していました。
ゆえに、イタリア国内で仕立てられるスーツを十把一絡げに”イタリアスタイル”と表現するのは、沖縄そばを指して『これが日本のラーメンのスタンダードだ!』と説明するくらい、けっこう無茶苦茶な話です。
イタリアは異文化の集合体のような国です。意外かもしれませんが、19世紀まで一つの国家ではありませんでした。
長年小国に分裂し、各国で独自文化を形成してきました。統一国家となって日が浅いので、北と南は関東人と関西人以上に、文化も性格も違います。ゆえに郷土愛の強さも日本の比ではありません。
更に、イギリス等の服飾産業は現イタリア地域をはじめ外国人労働者が支えてきたこともあり、出戻りした人々は各々のスタイルを母国に持ち帰り定着させました。
まさにカオス(混沌)。
あの長靴型をした国に、とんでもない量の異文化が押し込められているのです。
一つの街ごとに『○○界の四天王』だとか、
『○○が生んだ天才』が何人もいるような、
スーパーサイヤ人も真っ青なパワーインフレが
起こっている、ヤバいスーツ大国。
それがイタリアです。
オーナー:丹下氏が
『イタリア・クラシコは三大クラシックスタイルの中でもっとも奥深いのだ』
と食い気味に力説するのも頷けます。
(オーナーすみません)
そして、南部であるナポリは超・個人主義。
仕立て職人=サルトの数だけスーツの形があります。
同じ店舗=サルトリアですら、
担当するサルトによってハウススタイルが違います。
よって、さらに掴みどころがありません。
『イタリアのスーツに共通するシルエットなど、存在しない。』
これが、当店としての答えです。
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前回は『ザ・ナポリスタイル』と呼ばれる
Solito-ソリート-についてご紹介しました。
【紹介コラム】
我々が想像する”イタリアンスタイル”
に最も近いのが、ソリートのような
ハウススタイルではないでしょうか。
ところで、
ナポリ・スーツの源流とは何なのでしょうか?
イタリアファッションやスーツが好きでも
それを知る日本人はあまりいません。
初代:ソリートが師と仰ぎ、
当時生きながらにして伝説となった、
ヴィンツェンツォ・アットリーニ。
彼が仕立てたスーツが
全ての始まりとされています。
※『スティレ・ラティーノ』の現オーナー
ヴィンツェンツォ・アットリーニ氏
(ヴィンチェンツォ・アットリーニ)は
初代ヴィンツェンツォの名を継いだ孫で、
同一人物ではありません。
彼はイギリスの構築的なスタイルに
独自のエッセンスを加え、
”雨降らし袖”=マニカ・マミーチャや
舟形のポケット=バルカポケット
袖口のボタンを重ねたデザイン=キッス
1ボタン目を留めない仕様=段返り3つボタン
など、『ナポリ仕立ては、だいたいこの人。』
というレベルのディティールや技法を彼一人が考案しました。
一言でいうと、チート級の天才です。
その家業を受け継いだ一人が、
ヴィンツェンツォ氏の三男:チェザレ。
このチェザレ氏も別の意味で凄まじい人で、
それまで注文服=フルオーダー中心だった
高級紳士服の文化に”手縫いの既製服”という
新たな価値観をぶち込んだ立役者です。
チェザレ氏は兄弟きっての腕を持ちながら
早々に職人の道を捨てビジネスマンとして
類まれなるセンスを発揮。
あの世界三大既製服のKITON-キートン-や、
高級イタリア服を代表する ISAIA-イザイア-
の創始者を育て上げたのは、他でもない彼。
いかに”ヤバい人”か、想像に難くないです。
そしてそのヤバイ人は、
『イタリア中から腕利きのサルト(仕立て職人)を集めたら最強のプレタポルテ(既製服)ができるんじゃねーか?』
と更にヤバいことを考え実行してしまいます。
それが、三大既製服ブランドの中で
『最も高品質』と呼ばれる現:Cesare Attolini
-チェザレ・アットリーニ-です。
※ちなみに、長男クラウディオは
ヴィンツェンツォの工房を受け継ぎ、
次男もLONDON HOSE(ロンドンハウス)
のマスターテーラーを歴任。
全員凄すぎます。
ここまで長くなりましたが、
『そのナポリ・スーツの祖の血を受け継ぐアットリーニのスーツは結局どうなんだ』
という話に進みます。
そのスタイルを知らず、
”我々が思い描くナポリ・スーツ”に毒された
頭で身に纏うと必ず面食らいます。
身に纏ってみると、
肩は力が抜けたようにドロップ…
して、ない?!
別の1着も。
肩回りと胸周りは想像の10倍くらい、構築的です。
つまり、『思ってるより、英国っぽい』。
こちらはダブル。
軟派なギラギラ感、ゼロ。
漂うのは上品さと、艶気です。
何を隠そう、初代ヴィンツェンツォ氏は、
ナポリでは伝説のサルトリアと呼ばれる
『LONDON HOUSE』の出身。
LONDON HOUSE総帥(当時)の
ジェンナーロ氏と共にナポリ・仕立てを確立
したといっても過言ではありません。
英国調の雰囲気が漂うのは至極当然なのです。
この『英国っぽい』
傾向は、シルエットは全く違えど
他兄弟の作品にも共通します。
当店一押しの秋冬物も。
袖は優しいマニカ・カミーチャ仕上げ。
決してやりすぎではない。
胸から下は抜け感良く、あくまでふんわりと。
ラペルの返りも、タダモノではない。
『既製服ではありえないレベルで着用者の体型を補正する』それがアットリーニの真骨頂。
オーダーとは全く違うロジックに基づき、オーダーと同じかそれ以上に丁寧な工程で形作られるスーツ。
”体型に合わせただけのオーダーメイド”をあっさりと凌駕する美しいシルエットを描きます。
力強く、繊細。ナポリ人は何て欲張りなんだ…とすら思います。
ナポリ人は、自分たちをいかに格好良く見せるかだけを考えているので(※褒めています)、意外にも良いと思ったものは柔軟に取り入れています。
全てはカッコよく、楽しく生きるため。
そしてモテるため(重要)。けなげです。
これが、アットリーニが継承する
『究極の既製服:ナポリ仕立て』。
ナポリ・スーツへの我々の安直な?
固定概念は音を立てて崩れ去ります。
その他にも、
とにかく色気のある手縫いのボタンホール
芸術的な袖口
など、枚挙に暇がないので、
実物を手にとってご覧ください。
アットリーニのスーツは、
『ナポリ・スーツ』を代表する存在であり
伝統のナポリ仕立てを踏襲し、
常に進化し続けています。
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当店が取り扱う既製服の中で、
アットリーニは最も力を入れている
ブランドです。
アットリーニの品揃えは国内随一ですので、
是非公式サイトをご覧ください。
物量が多すぎる!!という方は、
是非店頭に足を運んでみてください。
運命の1着をご提案します。
当店がセカンド・ハンド品を
『Succeed wear』と表現するのは、
このような洋服たちとの
出逢いがあったからこそです。
ただの中古や古着に留まらない、
人から人へ受け継がれるべき価値が、
このアットリーニには宿っています。
一定の形がなく、
それぞれのハウススタイルと文化が根づく。
まさにラーメン並みのバラエティと奥深さ。
それが本来のナポリ・スーツであり、
イタリア・スーツの正体である。
というお話でした。
最後に、丹下オーナーと東京店店長の中村は
大のラーメン好きであることを付け加えておきます。
Cesare Attolini-アットリーニ-
ナポリの仕立て職人の登竜門とも言われる
『LONDON HOUSE』出身の伝説的職人、
ヴィンツェンツォ氏が1930年代に創業。
現在は2代目:チェザレ氏の名を冠する。
業界きっての職人集団を擁し、
既製服の概念を根本から覆す超絶技巧で
『既製服の頂点』と言われるほど
美しいシルエットを生み出す。
Artigiano-Tokyo