【マンスリーアーカイブ】3月テーマ 原点:『カラチェニ派』。ミラノ仕立ての複雑な系譜とその核心①

こんにちは。
Artigiano-Tokyo Ginza(東京銀座店)です。

1月のテーマで『ナポリ仕立てにおける構築』
を取り上げましたが、今回は更にその源流に
迫りたいと考えています。

クラシコイタリアがどのように誕生したのか?を
調べると必ず行きつくのが”頂点”と呼ばれる
北イタリア『ミラノ仕立て』です。

そして更に紐解いていくと、その源流と呼ばれる存在が
明らかになってきます。

3月はクラシコイタリアが内包する
”構築”の原点、”カラチェニ派”と呼ばれる人々が醸成した
複雑な歴史を持つ『ミラノ仕立て』がテーマです。

前半はカラチェニ派の弟子『ジャンニ・カンパーニャ』と、
同サルトリアが保有するブランドライン
『ドメニコ・カラチェニ』についてです。

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イタリアのクラシコスタイルはイギリスが
起源であるのは知られている通りですが、
特にサヴィルロウ本来の仕立ての特徴を残しているのが
『ミラノ仕立て』と一部のローマ仕立てだと言われています。

ミラノ仕立てはそのスタイル、そして用いられる生地
ともに英国のテイストを色濃く受け継いでおり、
最もサヴィルロウらしさを遺したクラシコウェアです。

サルトリア・カンパーニャ名義のカシミヤ混ジャケット ※成約品 イタリアのサルトリアは頻繁にタグを変えるため出自を追うのが難しい。低いゴージや絞りすぎないウェストライン、クラシックなシルエットからそれなりに古い個体と思われる。作りの構築さが前面に出ている。胸ポケットはバルカ仕様ではなく直線的。しかし起伏のないトルソーに着せるとやや脱力してしまうのがクラシコらしい。やはり人が着てこそだ。

ミラノ仕立ての特徴は前述の通り
男性のボディラインを誇張したかのような、
鋼のように力強いシルエット。
ナポリ仕立てが身体の延長線上にある『第二の皮膚』
的なシルエットに対し、
甲冑のように堂々とした胸周りと肩のラインは
ナポリ仕立ての軽快さとは明らかに趣を異にします。

それでいながら、クラシコの真髄である
『ストレスフリーな着心地』を実現しているという点が
まさにクラシコの原点の系譜らしい。と言えます。

『ドメニコ・カラチェニ』名義個体。北方系の仕立てであるミラノ仕立ては伝統を重んじながらもイタリアならではの設計解釈が盛り込まれている。かつて祖:ドメニコ氏は『スーツはハンカチのように軽くてはならない』と述べたというが、そのかっちりとした見た目からは想像できないほどに着心地に優れる。それなりに胸板がある体型の方が着映えするため、体型や演出する方向性によって南方系の仕立とうまく使い分けたい。

その重厚なシルエットは好みが分かれますが、
英国調のスタイルが好みである方にとって
ミラノ仕立ては最も相性が良いと言えるでしょう。

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しかしこのミラノ仕立て、かなり謎が多く、
その出自や系譜が錯綜しておりネット情報だけで
全貌を追うのは困難です。
文献によっても記述内容が異なるなど、
恒常的にクラシコイタリアを扱う当店でも
よく分からない部分があります。

ところで、クラシコ・イタリアをここまで
偉大かつワールドワイドな存在にしたのは、
伝説のローマの仕立て職人
『ドメニコ(ドミニコ)・カラチェニ』
の功績が大きいとされています。

在りし日のドメニコ氏。 出典:『DOMENICO CARACENI』本国サイト ※クリックするとジャンプします

このドメニコ・カラチェニはクラシコイタリア
そのものを築いた、クラシコの開祖とされます。
彼はサヴィル・ロウの仕立てを研究する中で、
それまで重々しく窮屈であったこれらのスーツを
根幹から覆す仕立てを20世紀初頭に開発します。
彼はこの仕立ての型紙で特許を取得し、
1933年に『サルトの技術と芸術のガイドライン』を発刊。
今でも各国の仕立て職人養成学校のバイブルとして活用され、
いかに彼の遺した功績が大きいかを物語っています。

彼の死後、直系の仕立て屋は消滅してしまいますが、
親族筋・そして愛弟子らが経営するいわゆる
『カラチェニ派』は現在もミラノとローマで存続しています。
特にミラノ仕立てはカラチェニ一族とその弟子達に
よって存続していると言っても過言ではありません。

親族筋がミラノに多いのは、弟であり弟子でもある
アウグスト氏が大戦の影響で『ドメニコ・カラチェニ』
のパリ支店を閉店しミラノに移転したのが、
大きな理由と考えられます。
※その後改称し『A・カラチェニ』として存続

ここでひとつ注意したいのは、初代:ドメニコ氏が
活躍したのは今から100年前の20世紀初頭であり、
”ローマ”で活躍したサルト(仕立て職人)だという点です。
※1940年代初頭に60代で逝去。

つまり『ドメニコ・カラチェニ』名義で出回っている
個体は本人の作品ではなく、親族または弟子が興した
ブランドネームであるという点です。

DOMENICO CARACENI のタグ。ハサミのマークはカンパーニャのマーク。ジャンニ・カンパーニャ製であることが明記されている。

当店を含めて取り扱いがある『ドメニコ・カラチェニ』
のネーム群は、”ジャンニ・カンパーニャ”が版権を持ち
1999年頃より仕立てていたものが大半です。

創始者ジャンニ・カンパーニャ氏は1962年に
ミラノの『サルトリア・ドメニコ・カラチェニ』
(上記の現A・カラチェニと思われる)で修業を積み、
20代にして『ゴールデンニードル賞』
(最高の仕立職人に与えられる)、
『ゴールデンシザーズ賞』『ファブリックカッター賞』
(いずれも最高のパタンナーに与えられる)
を受賞し、そのキャリアを揺るぎないものにします。
同時期にアルマーニ等をライセンス生産するGFT社に入社、
モデリストとしても活躍しその後独立。

天才の名を欲しいままにしたジャンニ・カンパーニャ氏。彼も既に故人である。 出典:『DOMENICO CARACENI』本国サイト ※クリックするとジャンプします

本人名義の仕立服を含め様々なブランド展開を行う中、
元顧客の協力でベルナスコーニ宮殿の旧カラチェニの
工房を引き継ぐことで版権を取得します。

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先ず、ジャンニ・カンパーニャ名義の仕立品を見ていきます。

ジャンニ・カンパーニャ Size:46 カシミヤ混ジャケット。カンパーニャは基本的に決まったパターンからその人の体型に合わせて仕立てる受注システムを持つ。サンプル品なのか不明だが、何と未使用。ウェストラインのメリハリが効いたスタイリッシュなモデルだ。比較的最近の仕立のようだが、ナポリのようにゴージ位置は高く設定しておらず、基本的にはあまりモダナイズしない。

恐ろしく手が込んでいることが分かりますが、
『世界で最も高価なクラシックウェア』
と呼ばれただけのことはあります。

真っ先に感じるのが『クラシックの中に宿るモダン』。
伝統的なミラノ仕立てを踏襲しつつ、スタイリッシュな
カッティングが僅かに織り込まれるなど、
この微妙なニュアンスがカンパーニャらしさです。
※仕立て時期によって微妙に異なります。

着画。凛とした表情がありながらも、動的な美意識が宿るのがやはりクラシコ。腕を上げたり、ポケットに手を入れたり、歩いたり、全ての動作がストレスなく表現され、そしてドレープを描く。

次に、同社が別ブランドとして展開する
『ドメニコ・カラチェニ』を見ていきます。

ドメニコ・カラチェニ名義のダブルスーツ Size:48 比較的高身長の方向け。見ただけでオーラ溢れる堂々たる佇まいは、カラチェニの名に相応しい。肩のロープドショルダーも威厳がある。他のカラチェニ派と比べるとジャンニ・カンパーニャ名義のカラチェニはややソフトな生地を好む傾向にあるがこちらはフラノ生地でしっとりしなやか。

ドメニコ・カラチェニはカンパーニャの
モダン要素を取り去り更にクラシック。
まさに源流を感じるにふさわしい仕立てと
手の込みようとなっており、
フラッグシップとしての威厳を感じさせます。

このクラシック映画から飛び出してきたかのような肩線と胸元がドメニコ・カラチェニの真骨頂。ボリューミーでどこか浮世絵離れした気品を感じさせる。

パンツ。太めのストレートで美しいドレープを表現する。敢えて深めのワンクッションの方が格好良い。これでいながら野暮ったくならないのが『良い仕立て』たる所以。

クラシック回帰の流れが続く中、
クラシコの本流であるミラノ仕立ては改めて再評価される
存在であると当店は感じています。

今回の3月テーマでは多数のミラノ仕立てを東京銀座店に集結。
新商品化された個体も含め見どころ満載となっています。

クラシック好きは是非この機会に当店にお越し下さい。

次回はカンパーニャ以外の『カラチェニ派』について語ります。

【オーナー在店期間】
在店期間は3月16日(土) 17日(日)の2日間です。
在店期間中は毎月恒例の『トレードアップフェア』
を開催。

お手持ちのクラシコウェアを下取りに出しクラシコ最高峰のミラノ仕立てを手にしてみませんか。

もちろん、即時お買取りも受け付けます。

この機会にご来店をお待ちしております。

Artigiano-Tokyo Ginza

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