それを聞かされた時、耳を疑った。
ネットで調べて紛れもない事実と分かった時、力が抜けていった。
「STEFANO BEMER(ステファノ ベーメル)」死去、享年48歳。
私の最も好きな靴職人「STEFANO BEMER(ステファノ・ベーメル)」が亡くなった。
彼の芸術的な作品も、靴に向き合う姿勢も、日本をはじめ外国人の弟子を複数受け入れる優しさも、本当に好きだった。
靴業界にとって大切な逸材を時期尚早に失ってしまった。
まだまだやりたい事が沢山あっただろうに・・・
”ビジネスに対応できる”希有な本格イタリア靴。
機能的な側面としての履きやすさと品質、
そして美的側面としての高いデザイン性、
ともすると相反する二つの要素を見事なバランスで同居させ、
既成靴として最高次元の世界観を構築している靴の数々。
靴の修理職人としてキャリアをスタートしたベーメル氏。
やがてゼロから靴を作り出すビスポーク(スミズーラ)靴に興味を持ち、
その技術を習得していく。
そして若干23歳で、フィレンツェに自らの名を冠したス・ミズーラ靴専門店を構え、
以来数多くのアートピースを生み出す。
その類稀なセンスとクリエイティビティ、職人としての見事なまでの技量で仕上げられた靴は、
瞬く間にイタリアのうるさいファッション関係者たちから“天才アルティジャーノ“という賞賛の声を得る。
その声の主の一人があのフィレンツェの名店”タイ・ユア・タイ“のオーナー、フランコ・ミヌッチ氏。
決して時代に流されること無く、普遍的な名品・良品のみを無抜く卓越した
審美眼を持つと評判の男フランコ・ミヌッチに太鼓判を押され、
さらに識者が認めた工芸品が並ぶDAギャラリーに永久展示されたという事実を記せば、
このステファノ・ベーメル氏がどれほどの靴職人であるかを理解できる。
3年前に私が初めてフィレンツェ本店を訪れたとき、
残念ながらベーメル氏本人にはお会いできなかったが、
ビスポーク靴サンプルやプレタポルテが整然と並んでいる
フィレンツェの街角にある小さなサロンは、
靴好きにとっては堪らないとてもワクワクする空間だった。
そんなベーメル氏の靴を当店でも知って頂こうと
常に10足以上のステファノ・ベーメルの靴を展示しています。
一度、お手にとって眺めてみてください。
見た目の靴の美しさばかりでなく、職人の魂までもが感じ取れるはずです。
今となっては、彼の魂が幾人ものお弟子さんに確実に受け継がれることを願うばかりです。
私も、自分の履くベーメル氏の靴を生涯大切にしていきます。
安らかに。